旅行記はたくさんある。僕はアジアが好きで,いろいろと読んだ。中には,正直に言って,下品なものも結構ある。それとタレントさんの書いたものもある。それらは,読んでいてもつまらないと感じる。やはり,旅行記は書いている人の品格が大事だ。旅をしている目線に関係するし,描写の文才が必要だ。
宮脇さん
その意味で,真っ先に推薦したい人が宮脇俊三さんだ。宮脇さんの旅行記は,高校生の頃から好きだった。宮脇俊三さんは中央公論社で長く編集者を勤めた人で,いわば文章書きの業界でずっと飯を食ってきた人だ。その旅行記は中央公論社を退職してからの趣味の領域で書かれたものだが,やはり文章に品があって,読んでいてとてもさわやかであり,そしてリアリティーがある。鉄道オタクさんなので,電車や時刻表の話が異常に多いのは我慢するしかなかろう。僕は鉄ちゃんではない。
中国火車旅行
さて,宮脇さんの旅行記は全部,鉄道旅行記だ。その中でも僕が高校生の時に初めて読んだ「中国火車旅行」をまず挙げたい。この本はなんといっても,上海から烏魯木斉(ウルムチ)までのシルクロード列車の何泊もの旅が圧巻だ。食堂車での食事の話もいいんだ。何より僕はものすごく中国旅行がしたくなった(実際にはする機会を逃したけど)。本書に同じく掲載されている韓国・サハリンの旅も,特に韓国では日本人に恩を返したいといって親切に案内してくれる初老の男性との出会いに暖かい思いになった。
インド鉄道紀行
そして次は「インド鉄道紀行」だ。永遠の国インド。ガイドのポールは曲者だがこれがまたいい。宮脇さんは売春窟などは避けるようにしており,本当のところはわからないが,これも旅行記の品格を下げないことにつながっている。安心して読めるのだ。インド編は,カレーの話ばかりだが,水でお腹を壊すくだりはリアリティーがあった。物乞いの少女といった描写も考えさせられた。そして,宮脇さんの作品の良さは,食べ物の物価を現地の価値と日本円の価値で比較してくれることだ。当時はかなりの円高の時代。今のように円安だとかなうはずもない,物価の安い国での旅行だが,宮脇さんは物価の安い国でも贅沢は控え,その国の生活感覚を大事にしようとしていて,とても好感がもてる。物価が安いから,贅沢をしまくるような旅は品がないのだ。
台湾鉄路千公里
さらに,「台湾鉄路千公里」もよかった。まだ,台湾が今より町の整備が進んでいなかった昭和の終わり頃のようだ。この旅行記も,私が台湾に行きたくなったきっかけだったし,映画「恋々風塵」などを見たときに,宮脇さんの台湾旅行記で興味をもったことが影響した。同じく収録されている汽車旅は地球の果てというのは,宮脇さんがだいぶ高齢になってからの旅行記のようで,アンデス列車での空気の薄さに苦労している様子が印象的だ。
シベリア鉄道9400キロ
最後は「シベリア鉄道9400キロ」だ。まだ,ソビエト連邦だった時代,船で東の端の港ナホトカまで行き,そこから極寒のシベリアを何泊もかけてモスクワまで旅するのだ。今のロシアは戦争をしていてすこぶる評判は悪いが,当時のソ連はもっと日本人にとって敷居の高い国だった。でも,ロシア人との交流は,共産主義国の不便さや,食べ物の質の悪さなどがありつつも,ロシアの風景が目に浮かぶような旅行記となっているし,何より暖かい日本でいるわが身がありがたくなる一冊だ。
本と実際のギャップ
とまあ,宮脇さんの本をいろいろと紹介してきた訳だが,私自身は,アジアでは上記で述べた台湾以外にタイと香港にいったことがある。そこで感じたのは,食べ物の味覚が合わないことだった。宮脇さんも台湾旅行の際に,香料が鼻について食べられないことが多いと書いている。私もまさにそうだった。どこの国も国民に合わせて料理が作られているから,実際行ってみると口に合わないと思うものの如何に多いことか。そういう面は実際にいってみないと分からない。そして宮脇さんのように旅を楽しむという境地になかなかなれなかった。だから,旅行記は本当に旅はいいなあと思うのに最適なのである。実際に行くと,列車にアリがいてかゆいとか,地下室のようなホテルにとまって息がつまりそうとか,コンビニのペットボトルの飲み物が全部甘すぎるとか,いろんなことがあるから。暇を持て余すよりは本で旅行気分もいいのでは。
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