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心理の国家資格
公認心理師は,心理学分野で日本初の国家資格です。民間資格ではとてもたくさんのカウンセラーの資格があります。しかし,国が公式に認めたカウンセラーの資格は公認心理師が初めてです。類似した国家資格に精神保健福祉士がありますが,ここでは触れません。長く心理学の世界で仕事をしていますが,国家資格ができたときはうれしかったですね。
名称独占と業務独占
さて,公認心理師ですが,これは名称独占資格です。他に業務独占資格というのがあります。例えば医療行為は医師じゃないとしてはいけないですよね。こういうのを業務独占資格といいます。仕事と直結する資格なので最も重要とされる国家資格の条件であるといえるでしょう。名称独占資格は「公認心理師じゃない人が名乗ってはいけませんよ」ということです。
公認心理師が募集条件に
しかし名称独占も決して無意味ではありません。例えばスクールカウンセラーになるには,公認心理師を保持していること必要です。特定の心理職の募集でも公認心理師は必要な条件になっています。つまり,専門機関で働くには,公認心理師をもっていることが事実上必須なのです。
カウンセリングは自由行為
ただし,カウンセリングを公認心理師しかしてはいけないという縛りはない訳です。例えば,さきほど少し触れた精神保健福祉士も医療現場でカウンセリングをします。民間資格(臨床心理士など)でも,カウンセリングを行うことは何の問題もありません。
カウンセラーの養成は時間がかかる
実際にはカウンセラーの資格にはとても長い期間が必要となります。しかし,数日で取れてしまうものもあるのは事実です。一般の人から見ると区別がつかない事情がありますね。そのため,国家資格は国のお墨付きの資格なので,資格の信頼度が向上したいえます。
資格試験
公認心理師は国家試験に合格しなければなりません。国家試験は毎年1回,3月の初めに行われます。全てマークシートの筆記試験で,午前と午後2時間ずつ,154問の問題があります。形式は専門知識を問う選択問題と,事例を読んで対応方法などを答える問題があります。面接試験などが課されないので批判の声もありますが,現状ではこうした形式です。
受験資格
国家試験は受験資格があり,公認心理師の養成課程の条件を満たした4年制大学を卒業し,①国の定める基準を満たした施設で2年以上の実務経験を積むルートと,②公認心理師養成課程の条件を満たした大学院修士課程(2年間)を修了することの2通りがあります。しかし現状,①の施設は全国でも一ケタしかなく,現実にはほとんどの人が②の大学院に進学しなければ公認心理師の受験資格は得られません。つまり大学4年と大学院2年の合わせて6年間,学ばないといけないんです。
心理実習
それと公認心理師の養成課程では,必ず履修しなければいけない授業が決まっていますが,その中でも心理実習は最も重要な学習機会となっています。大学では80時間以上,大学院では450時間以上の実習時間をクリアすることが決められています。大学では施設を見学する実習ですが,大学院では実際にクライエントの相談を担当します。とても長い時間と,学費も必要になりますよね。
就職先
公認心理師の就職先は,主に公立学校でのスクールカウンセラー,病院の心理職,児童養護施設の心理担当職員,発達支援施設の職員などがあります。それから,国家公務員では法務教官,少年鑑別所職員,家庭裁判所調査官などがあり,地方公務員では児童相談所職員などがありますが,公務員の場合は,公認心理師は必須ではなく,公務員採用試験に合格することが最優先です。もちろん公認心理師をもっている方も少なくはありませんが。なので,公認心理師をもっているから就職できるところというと,前半で書いた民間の施設が挙げられます。
スクールカウンセラーの身分
スクールカウンセラーは嘱託公務員ですが,1年契約の不安定な身分ですので,後半に書いたその他の公務員の心理職とは実際はかなり雇用条件や安定性が異なると言わざるを得ません。収入面も民間施設であれば,相応の給与が得られますが,公認心理師だからすごく高給という訳ではありません。なので,高い収入を目指そうと思ったら,6年もかけて学校に通って国家資格をとって公認心理師として仕事をするというのは,あまり割に合わないと考えることもできます。
公認心理師を取るメリット
ですが,カウンセラーになりたいとか,心理面で人を支える仕事がしたいといった思いを強く持っている人にとっては,とても意義のある資格だということができます。現状では公認心理師は1回合格すると資格の更新制度などもないので,一生所持していられます。もちろん研修などを課して更新制のような形にしてはという意見もない訳ではありませんが,今のところは一生もっていられる資格です。
公認心理師を目指すかどうか
高校生の皆さんの中には公認心理師を目指すかどうか迷っている人もいると思います。上で書いたように,公認心理師というのは高給取りを目指すなら,優先順位は低いです。しかし,仕事のやりがいを求めるなら,公認心理師を目指すのはアリだと思います。ただ,大学で教えている経験から一つだけアドバイスさせてもらいたいと思います。
相談を聴いてもらうのと聴くのは違う
これまでカウンセラーの人に話を聴いてもらってすごくよかったから自分も人の役に立ちたいという理由で公認心理師を目指すのは,少し立ち止まって考えてみてほしいです。というのは,人に相談を聴いてもらってすごくうれしかったという体験と,今度は自分が人の相談を聴いてその人の心理的な支えになるというのは決して同じではないからです。
心の健康を自分が維持すること
もちろん,自分がいろいろと苦しい経験をしてきて,それを乗り越えてきたことは,悩んでいる人の相談に真剣に向き合っていくことに役に立つ面はあるでしょう。ですが,公認心理師のような人の心の支えになる仕事をするためには,まずは自分の心の健康を普段から維持していられることがとても大切だと思うのです。心の健康を維持するというのは,悩みがない状態というわけではありません。
心が健康という状態について
人間は誰だって落ち込むことがあるし,腹を立てることだってあるでしょう。しかし,心が健康というのは,それでもある程度,精神的に安定する工夫が自分でできるということです。例えば,夜ちゃんと寝て朝起きられるというだけでも,心の健康の条件の1つです。親御さんや家族の誰かが困っているとき,助けてほしいとき,何かできることをしているでしょうか?そうした人間として当たり前のことをできることが,心が健康だということです。
人間性を磨くことの大切さ
なので,自分の心の健康,違う言い方をすれば人間性を磨いておかないと,人を心理的に支援するというのは難しいです。この点は強調しておきたいと思います。公認心理師を目指すにはたくさんの大学があります。もちろんそうした大学に入学して,決められた授業を受けていくことも大事ですが,同時にいろいろな本を読んだり,周りの人の話に耳を傾けたり,ささやかなことでいいのでいろいろな経験をしてみて自分の世界を広げていくことが,本当の意味で公認心理師として必要な人間性を身につけていくことだと思います。
それでもやりたいと思ったら行動を
以前書いた記事で説明した相手とギブアンドテイクの関係でいること,特に親であっても大事です。これは高校生のときからでもできることです。自分がそうした努力ができるか,試してみて下さい。行けそうだなと思ったら,ぜひ公認心理師を目指して一緒にがんばりましょう!
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