『八方美人』の心がけはあぶない

みんなに好かれること

「誰にでも好かれるような人間になれ」とても耳ざわりの良い言葉ですね。周りの人に気を使って,できるだけ人の気に入られるように行動して,余計なことは言ったりしない。出る杭は打たれるということわざにもあるように,目立たないことが日本人の人間関係ではとても賢明といわれます。人に好かれようとするのは,嫌われないようにするのと似ていて,相手の気持ちに敏感で気配りができないとなかなか難しいでしょう。しかし・・・本当にみんなに好かれることってできるんでしょうか?周りの人みんなが自分を好きでいてくれたらこんなにうれしいことはないけれど,皆さんはどうですか?嫌いな人は一人もいないなんてことはないですか?それともすごく素晴らしい人は,誰にでも好かれるということがありうるのでしょうか?

ねたみ

私たちは人と比べる世界で生きています。例えば,中学校ぐらいになると,先輩に敬語を使うよう,後輩は求められたりします。敬語って難しいですよね。尊敬語,謙譲語,丁寧語があって,相手と自分の関係性によって使い分けなきゃいけない。まあ丁寧語を使っておけばだいたい大丈夫なんですが,細かい話をすれば,相手が上の場合,自分がする行動は謙譲語で言わなきゃいけない。とてもややこしいんです。それと同じく,中学校ともなると成績で順位がつきます。小学校だと順位はつきませんよね。それが中学校になるとクラスで何番とかの順位がつく。これって大きな変化なんですよ。人と比べて自分が勉強できるかどうか,厳然と事実がつきつけられる。同じような制服を着て,校則で同じような見た目のなかで,イケメンだったり美人の子が逆に目立ったりする。同級生同士,比べやすい環境に置かれるわけです。心理学的には自意識が芽生えるという時期ですから,複雑な心理的メカニズムが働くなるようになる時期です。で,うらやましいという感情も芽生えるし,その陰性の感情が「ねたみ」なわけです。ねたみは自分にないものをもっている人に対して向かっていきます。当然,ねたまれている方はあまり気づきません。そうすると勝手に相手が嫌ってくるとか,嫌な態度をとるといったことが起きます。

偏見

アメリカの人種差別解放運動の話をするまでもなく,人間は肌の色や人種でずっと差別をする歴史を繰り返してきました。日本人だってお隣の朝鮮半島出身の方々を差別する人がいます。もともと渡来人として朝鮮半島から渡ってきた技術者が日本で大きな建築物を建ててくれたりしたし,「奈良」という地名だって,朝鮮半島由来の言葉なのですから,日本人と違うという差別をするのはおかしな話なのですが,現時点あるいはちょっと前の歴史的経緯で違うというだけで差別をする人がいます。なぜ差別をするかというと,優越感に浸りたいからだと思います。ナチスドイツのヒトラーがユダヤ人を差別した優生思想だって,無理やりドイツ民族が優れていると宣伝するためにこじつけたものです。それがホロコーストというひどい悲劇を生み出してしまったのですから,人間がもつ優越感にもとづく差別はとても有害です。そして,その差別は自分自身に向くことだってあります。差別してくる人は理不尽に人を嫌うし,不快な接し方をしてきます。特に外国に行ったりすると,いくら努力しても差別する人がいるかぎり,好かれることは難しいのです。

どうすればよいか

結論として,みなに好かれるのをやめることです。ただしわざと嫌われる必要はありません。世の中にはねたみをもったり,差別をしたりする人がいるという現実を受け入れて,そうでない人に好かれればいいやという考え方に変えれば生きるのが楽になります。これをアメリカの言葉でラショナル・ビリーフ,つまり合理的信念といいます。その逆がイラショナル・ビリーフ,つまり非合理的信念ですが,みなに好かれなければならない,というのはまさに非合理的信念なのです。日本人は精神論が好きなので,非合理的信念にはまることが結構あります。カウンセリングの場面で,無理をしている,もっと楽な考え方に変えた方がよいと思えるクライエントさん(相談に来る人をクライエントといいます)は少なくありません。カウンセリングでは,その人が楽になる考え方を身につけてもらいたいので,ときにはこういう理屈っぽい話をしながら,合理的信念に変える努力を勧めることがあります。そして,楽になるというのは何も怠けることではなく,現実に即した柔軟な考え方で生きていくことだということがわかります。アメリカから渡ってきた考え方ですが,とても面白いと思いますね。現実に役に立つことに最も価値を置くことをプラグマティズムといいますが,アメリカ人はプラグマティズムが好きなようです。日本人はもっとプラグマティズムがあっていいと思います。私もスクールカウンセラーにいったとき,先生たちの相談を聞くとよくプラグマティズムの考え方を勧めます。皆さんも現実をしっかりみて柔軟な考え方を工夫して,楽に生きることを試してみませんか?

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です